影絵 ・文/石井昭さん(宇部興産〜テレビ山ロOB)

同時代で斬る

 脳神経外科で使われるハイテク設備に、MRI(磁気共鳴装置)があります。人間の頭脳を何層にも輪切りにした映像を撮り、脳内部の状況を調べるものです。同じ考え方で歴史を輪切りにして、同時代に日本では、外国ではどんなことが起こっていたかを見るのは、別にそれを知ったらといって何の得になる訳でもありませんが、ちょっと新鮮な視点を得ることができます。

 例えば、以前にも採り上げた「神籠石」という山城の発端となった日本・百済と新羅・唐各連合軍が戦った白村江の海戦(663年)ですが、「西遊記」の玄奘がこれの六年後に亡くなっていますから、天竺への大冒険旅行はもう終わった頃でしょう。同じ669年、今のイスタンブール、当時はローマ帝国の都コンスタンティノープルが、アラブ軍の攻撃を撃退しています。

 源平の戦いに決着を付けた壇ノ浦の戦い(1185年)の9年後には第四回十字軍が遠征、その2年後にはチンギス・ハーンがモンゴル帝国を建て、やがて源氏の次の北条幕府が遭遇する元寇へと至ります。源義経がチンギス・ハーンになったとする伝説も、時代的にはつじつまが合います。毛利元就が厳島で陶晴賢を破った1555年、武田・上杉が死闘を繰り返した二度日の川中島の戦いがあり、ヨーロッパではアウグスブルグの宗教和議が成立します。既にこれより20〜30年前コルテスやピサロが中南米を征服して、掠奪を欲しいままにしています。近代兵器の有無が、一つの文明の革命を左右します。

さて織田信長が中国地方を攻略した1580年、スペインがポルトガルを併合します。カの世界です。毛利輝元が家康に左遷(?)され、結果として明治維新に導くエネルギーが蓄積される遠因となった関ヶ原の戦い(1600年)と同じ年、イギリスが東インド会社を設立、植民地経営に乗り出します。ペリーが日本に来航した1853年、ヨーロッパではクリミア戦争が、そして日本を統一する思想家吉田松陰が生涯を終えた1859年には、都市国家で分裂していたイタリアが統一戦争に入ります。高杉晋作が生まれた1840年はアヘン戦争が始まった年。成人して破れた中国の実情を実地に見聞した晋作は、国防に意を注ぐことになります。松陰ほか多くの人材を処刑した井伊大老が暗殺された桜田門外の変(1860年)の翌年には、アメリカで南北戦争が勃発、統一戦争を終えたイタリアが一つの国家となります。

 駆け足で同時代を斬ってきましたが、本当にいろいろな国でいろいろなことがあり、中には遠く離れていても共通したコンセプトの事象があったり、何十年も後に関連し合う運命の事件もあり、歴史の面白さ・不思議さを考えさせられます。